一人圭沙都妄想街道突っ走ってごめんなさい(笑)

「クールになれ、前原圭一。
さすがにこんなの使えないだろ?!」
家の鍵にぶらりとぶら下げたキーホルダーを睨みながら一人唸る。
いつもついていたオットセイのキーホルダーは現在レナにお持ち帰りされている。
あまりにもレナがもの欲しそうに見ていたので、俺が持っているよりは幸せだろうとレナにやることになったのだが……。
「あ!でもこれなくなっちゃったら圭一くん、鍵困るよね?
う〜ん、あ、そうだ!これ、あげるね!!」
「な、なんだよ、これはっ!?」
「レナが作ったんだよ!だよ!
えへへ、かぁいく出来たんだけど……オットセイくんのお礼に圭一くんにあげるね☆」
「だからちょっと待て!これ沙都……」
「じゃあね圭一くん。大事に使ってね♪」
「使ってねって……こんなん使えるかあぁぁぁぁぁあーーーーっ!?!?!?」

俺の叫びもオットセイにかぁいいモードになって走り去るレナには聞こえない。
で、結局俺の手の中にはこの人形が残されたってわけだ。
「いくらなんでも男の俺がこんなん使ってたら怪しすぎるだろ……」
特に魅音辺りにバレてみろ。
散々からかわれた挙句に次の日には村中にあらぬ噂が広がっているに違いない。
『ちょっと聞きました?前原さんちの息子さん、女の子の人形を肌身離さず持ち歩いているそうよ』
『しかも話しかけたり着せ替えしたりしてニヤニヤ笑ってるんですって!』

「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!
ちっがーーーーーうっ!!!これは俺の趣味じゃないんだーーーっ!!!」
妄想の中の噂に頭を抱えて転げまわりながら否定する。
いっそ、富田君あたりに売りつけようかという考えが脳裏をよぎる。
けど。
「それは、まずいよな」
仮にもこれはレナが作ったものだ。
それを勝手に売りつけるなんてことは出来はしない。
ましてや俺が沙都子の人形をさっさと富田君に売りつけたなどと沙都子が知ったらひどく傷つくだろう。
それに……この人形を持って幸せそうにしている後輩の姿を想像するのはなんだか少し面白くなかった。
「悟史なら……使うんだろうな、きっと」
根拠はない。だがそれは確信だった。
俺は悟史じゃないが……沙都子のにーにーを自称している。
なら、悟史に出来ることを俺がしないわけにはいかないじゃないか。
「……ちくしょう、レナのヤツ。最初から全部計画済みだったんじゃないだろうな……?」
俺は、結局明日から鍵にこの人形をつけて生活する自分の姿を確信して。
この場にいないレナに一人毒づく。
想像の中のレナは「全部わかってるよ」とでもいいたげにニッコリと笑っていた。